労務管理Q&A - 解雇
試用期間中の解雇に関する労務管理Q&A
A社の場合・・・
- 弊社は社員を採用する場合、就業規則の規定に基づき、採用の日から6ヶ月間を試用期間と、試用期間中、又は使用期間満了時に社員として不適切と認められる場合は採用しないことにしています。今回、試用期間中の社員の勤務態度が悪く(頻繁に遅刻・早退を繰り返し、上司に大して敬語を使わないなど)仕事への意欲を感じることができないため、労務管理上正社員採用を見送ろうと考えていますが、問題はありますか?
- 一般に会社が採用する場合、入社テストや面接だけでは労働能力や適正などを充分に把握することできないので、一旦入社させた後、一定期間職場で働かせて様子をみた上で、業務遂行能力を客観的に評価するための仕組みとして、試用期間が設けられています。この試用期間中の、法的性格については「解約権留保付労働契約」と考えられています。
今回のケースでは、遅刻・欠勤が多く、社員として適格性が疑わしいことがわかりましたので、労務管理上採用の拒否をすることは可能であると考えられますが、あくまで、解雇には違いがありませんので、少なくとも30日以上前に、本人にきっちりと説明しておくことが大切です。
■解約権留保付労働契約
試用契約は当初から期間の定めのない通常の労働契約であり、企業がその労働者を正規従業員として不適格と判断した場合の解約権を大幅に留保しているとする考え方です。
≪試用契約≫=原則的に労働力適格性判断のための実験観察期間
試用契約が解約権留保付労働契約であるとすると、その試用期間中の解雇や本採用拒否は解約権の行使となり、この場合、解約権は無制約に行使できるかであるが、そうではありません。
使用契約の解約権行使
正社員の場合の解雇についても同様に、「客観的に合理的な理由」が必要であると解釈されていますが、その基準は、当然、試用期間の基準とは差があります。正社員の解雇基準は、かなり厳格に解釈されていますが、試用期間の場合は、それに比べ大幅に緩やかに解釈されると考えられています。
不祥事を起こした社員の解雇に関する労務管理Q&A
B社の場合・・・
- 社員が会社の商品を横領してインターネットで販売していました。直ちに解雇はできますか?
- 会社が社員を解雇する場合には「1.労働基準法に定めれた手続きに違法はないか」「2.その解雇の理由が客観的で合理的なものか」、の2点を考慮する必要があります。
■解雇手続きについて
(1) 通常の解雇の場合、解雇の予告が必要です。
解雇する場合には、少なくとも30日前に解雇の予告をするか又は30日分以上の給与(平均賃金)を支払わなければなりません。原則として、突然の解雇はできません。尚、業務災害で休業している期間、労基法65条の産前産後休業期間及びその後の30日間は、解雇することはできません
(2) 解雇予告が必要ない場合
≪1≫=天災事変その他やむを得ない事由のために事業継続が不可能となった場合
≪2≫=従業員の責めに帰すべき事由について、所轄労基署長の認定をうけた場合
責めに帰すべき事由例として
■極めて軽微なものを除き、事業場内における窃盗・横領・傷害等の刑法犯に該当する行為があった場合
■賭博・風紀紊乱等により職場秩序を乱し他の従業員に悪影響を及ぼす場合
■経歴詐称
■2週間以上無断欠勤し出勤督促に応じない場合
■著しい出勤不良など
≪3≫=日々雇い入れられる者、2ヶ月(季節的業務の場合は4ヶ月)以内の期間を定めて使用される者、試用期間中(14日以内)の者については必要ありません。
■解雇の理由について
会社は自由に従業員を解雇することはできません。労働者保護の視点から実際に解雇する場合には、「客観的で合理的な理由」を必要としています。具体的にはケースバイケースですが、基本的に日本は終身雇用・年功序列賃金が前提である為(最近は変わりつつありますが)従業員側にとっては緩く、会社側にはかなり厳しい内容になっていて、簡単には解雇できないのが、現状の法的な考え方です。
この度のような横領の場合、会社への背信行為として解雇が認められた判例がありますが、その内容、状況等を充分に考慮した上で、慎重な判断をすることが重要です。
■労働契約終了パターンの整理
契約期間の定めがない場合
辞職(自己都合退職) =社員が一方的に辞める →民法627条
解雇 =会社が一方的に辞めさせる →労働基準法19から21 条解雇権濫用法理
定年退職 =就業規則に基づく定年年齢の到来 →高年齢者雇用安定法
契約期間の定めがある場合
期間満了による退職 =予め決まっていた契約期間の終了 →法律は関係なし
辞職(自己都合退職) =契約期間中に社員が一方的に辞める →民法628条
解雇 =契約期間中に会社が一方的に辞めさせる →民法628条
雇い止め =予め期間が決まっていた労働契約が繰り返し更新された後、期間満了として労働契約が更新されない →契約更新の実態等により解雇権濫用法理を類推適用
共通部分
合意退職
=社員から「辞めさせて欲しい」と申し出て、会社が承認する
会社から「辞めて欲しい」(退職勧奨)と言われて社員が承諾する
→法律は関係なし(自由にできる)
経営難による解雇に関する労務管理Q&A
C社の場合・・・
- 会社の経営が非常に苦しく、これ以上雇用を維持するのは困難だと思い、社員を解雇することにしました。経営が苦しければ、それだけで解雇は法的に許されるのでしょうか?
- 不況等によって余剰人員が生じ、工場や部門の閉鎖、経営の縮小などを行うために人員整理をしなくてはならないことがあります。この余剰人員を解雇することを整理解雇と呼びます。整理解雇は他の解雇と違い労働者の責に帰す理由での解雇ではないため、その要件は厳格です。この整理解雇が正当性を得るためには、過去の判例で積み上げられてきた「整理解雇の四要件」を満たす必要があります。
【1】 人員整理の必要性
どのくらいの経営危機にあれば人員整理の必要性が認められるかという点がポイントになりますが、「企業の存続が不可能になることが明らかな場合でなければ従業員を解雇し得ないという考え方は、資本主義経済社会における現行法制の下では採用できない」(東洋酸素事件)と企業の合理的経営をしていく上で、やむを得ないとみとめられる程度の要件があればよいとされています。
経営危機よる人員整理必要性の認定
【2】 解雇回避努力
「人員整理はこれ以外の措置を講じてどうしても企業を維持できない場合の最終的措置とされるべきで、できるだけ人員整理を避けるべく何らの努力もなされないまま、安易に実施された人員整理は濫用に亘るものと解される」
≪解雇回避努力≫ =時間外労働短縮や出向、希望退職の募集、新規採用中止など
但し、状況によっては必ずしも希望退職の募集がなくてもやむを得ないとする判例もありますので、会社の現状や規模等をよく確認することが必要です。
【3】 対象者選定の合理性
対象者選定の基準は公正におこなわれる必要があります。「経済的打撃の低い者」「勤務態度の悪い者」など客観的で合理的な基準を設けることが必要です。「適格性の有無」という人選基準が抽象的で無効とした判例(労働大学事件)もありますので注意が必要です。
≪日立メディコ事件≫ =企業への帰属性の薄い者の優先的解雇は妥当という判断
「臨時員全員の雇止めが必要であると判断される場合には、これに先立ち、期間の定めなく雇用されている従業員につき希望退職者募集の方法による人員削減を図らなかったとしても、それをもって不当・不合理であるということはできず、右希望退職者の募集に先立ち臨時員の雇止めが行われてもやむを得ないというべきである。」
【4】 手続の妥当性
使用者は労働者や労働組合に対して、整理解雇に至った経緯や時期・規模・方法について説明すべき信義則上の義務があるとされています。
≪日証事件≫ =労働者に対する突然の解雇を下記のように指摘
「債務者は、解雇の遅れによる人件費の増大を危惧するが、それ故に全く抜き打ち的な解雇が是認されるわけではない。」
最近の動向
長期雇用を前提とした日本的雇用慣行が崩れ、雇用の流動化、非正規社員の増大などの社会的変化に応じて、整理解雇の四要件も徐々に緩和され、この4つの要素を複合的に判断するという判例も出てきています。しかし、それらの考え方は事例後との内容を充分に加味して判断されたものであり、解雇に関しては慎重に、十分な注意と配慮が必要であることに変わりはありません。